素材追求型のブランドが主流になる昨今のファッションの流れの中で、本ブログでもご紹介しているAURALEE(オーラリー)やCOMORI(コモリ)、CIOTA(シオタ)など、様々な形で異彩を放つブランドは多くある。
今回注目する「HERILL(ヘリル)」もその代表格ではありながら、リネンシルク、カシミヤシルク、コットンリネンなど素材を交織することでまだ世の中にない素材を生み出す多くのブランドとは異なり、単一素材をどう扱うかを追求することで見たこともない素材の一面を私たちに見せてくれるブランドだ。
HERILLとは
HERILLとは“本当にいいもの”を追求し、真面目に且つ、デザイナー自身が本当に面白いと思えるプロダクトを展開している日本のカジュアルウェアブランド。ブランドのスタートは2019年秋冬からと比較的新しいブランドだ。
ブランド名の由来は、 “受け継がれてきた物や遺産”といった意味の“Heritage”と、“未来や今後”を指す“Will”を掛け合わせた造語から。HERILLが未来へと受け継がれ、その未来が訪れた時に「いいものであった」と思われるような服づくりをしたいという想いから、この名前が付けられたそうだ。
ちなみに、HERILLの服の下げ札の裏面にはサブタイトル風の一言があり「The Coast of Heritage」と書いてある。スチュアート・ダイベックというアメリカの作家が『The Coast of Chicago』という本を出版おり、その邦題が『シカゴ育ち』。デザイナーの大島裕幸さんはそこに「Heritage育ち」という意味合いを持たせ、古着だったり服の生地のよさだったり、その遺産をもう1回引っ張り出して、皆が「昔は本当によかった」と言ってしまうような服作りをされている。
展開アイテムは、古着をベースとした独自のデザインと、ニュートラルな印象が特徴だ。
古着を参考にされてはいるが、HERILLのアイテムにはいわゆる「古着のリプロダクション」といった雰囲気はなく、男性か女性か曖昧なところを行き来するような服を理想とされており、いい意味で男性的ではなく、力みのない雰囲気になっている。
素材に関しては特に深いこだわりを持っており、日本の高い技術や経験を持つ伝統ある工場と新しいコンセプトの素材開発も行なっている。既に体感したことのあるような心の動かない生地を採用することはなく、繊維から糸、糸から生地へとなるまでの技術や、仕上がり状態、また着込むことで表れる変化まで、自身が感動する素材だけをひたすらに求め、業者へ依頼しているそうだ。
デザイナーの大島裕幸さんもインタビューにて、「売りたい」というよりも買って着た人が「めちゃくちゃいい」という服を「わかる人だけに届けたい」と仰っていた。後ほどいくつかHERILLの展開アイテムをご紹介するが、アイテム一つ一つからこの想いを感じ取れるほど、ものづくりへのこだわりが滲み出ている。
HERILLデザイナー大島裕幸さんってどんな人?
HERILLのデザイナーは大島裕幸さん。1974年の香川県生まれです。
大島さんは、文化服装学院を卒業した後、デザイナーズブランド「KEITA MARUYAMA(ケイタマルヤマ)」、セレクトショップ「JOURNAL STANDARD(ジャーナルスタンダード)」で企画などキャリアを積んだ経歴を持たれており、しっかりと生産側出身の方だ。
服作りが好きだった祖母の近くで育った環境からご自身も服好きになられたようで、古着愛好家としても有名なデザイナーだ。
全てのアイテムは「万人受けするものではなく、価値に共感してもらえる人たちにいいものを届けたい」という想いから、いい物を長く使っていくことを大切に考え、自身が“いい”と感じる、心の動く素材選びやデザインを行われている。
得意とするのは、普遍的でベーシックなスタイルに、素材やシルエットで作る表情に新しさを加えたデザインだ。
2019年のファーストコレクションでは、カシミヤ専業メーカーと協業し素材を開発。過去にアパレルでは使われなかった、ゴールデンキャッシュと呼ばれる新しいカシミヤ素材を使用し、業界人の話題を呼び注目を集めた。今ではこのゴールデンキャッシュはHERILLの代名詞ともなっている。
ゴールデンキャッシュとは
カシミヤの中でもゴールデンキャッシュは、取れる量が少なく、出回ることも少ないそう。所謂高級カシミヤのベビーカシミアと同等の繊維長で、とても毛が長いのが特徴だ。大島さんによると、本来ではフワッと薄く仕上げられる素材だが、HERILLではガンガンに詰めて織っって使用されており、着るたびに風合いが増す仕組みだ。高級寝具メーカーなどが使用することが多いようで、アパレルブランドからはほぼ出ることはないそうだ。
そして現在ではカシミヤを始め、シルクやリネンなど天然素材の良さを追求し、自身が感動する“いいもの”だけを求め、こだわりのプロダクトを生み出されている。
HERILLの定番&おすすめアイテム
前述したゴールデンキャッシュのカシミヤニットなど、HERILLでは定番や人気を集めるアイテムがいくつか存在する。こちらではその一部をご紹介したい。
ゴールデンキャッシュ カシミヤ クルーニット
通常のカシミヤの僅か0.1%ほどしか生産されない、非常に希少な原料であるゴールデンキャッシュを使用したクルーネックニット。通常のカシミヤに比べ金茶から、赤みを帯びた淡いベージュが特徴で、ヘリルではそのナチュラルな色味をそのまま活かしてニットに仕上げている。13.5マイクロン(Super180’s相当)というカシミヤの中でも最上級の繊維の細さを誇る原料は、たっぷりと空気を抱える事で保温性を確保し、えも言われぬ肌心地の良さを実現。ヘリルでは繊維長の長いカシミヤを敢えてゲージを詰めて編むことで肉感を出し、カシミヤの柔らかさに負けない、タフで長く着ていただけるニットになっている。HERILLでは定番的立ち位置にあり、ハイネックやカーディガンなどシーズンによって様々な形を展開している。
コットン カーディガン
HERILLというと秋冬はカシミヤ、春夏はコットンニットというイメージがあります。こちらは春夏に展開された最高級綿と言われる希少な超長綿を使用し、厚みを持たせて度詰めにしっかりと編んだコットンニットだ。繊細でありながら、もちっとした肉感のあるニットに仕上げており、滑らかさと、光沢感を存分に味わえる一枚だ。もちろんカシミヤ素材同様にクルーネックなど形違いも展開されている。
カシミヤデニム
基本はジーパンをアレンジしたスタイルで、ウェストをつまんでインタックをつけ、バックポケットはホームベース型。コインポケットを排除し、スラックス然としたスタイルになっている。ほんの少しだけテーパードを掛け、シルエットもキレイだ。また定番で5ポケットデニムというタックなしのストレートデニムも展開している。
素材は表に来るタテ糸にインディゴでロープ染色したコットン糸、裏面に来るヨコ糸にカシミヤ糸を使ったカシミヤデニムだ。肌に触れる部分がカシミヤなので、肌へのあたりがとてもよく、見た目のハードさに対して驚く心地よさになっている。表面は通常のデニムのように使い込む事で色落ちしていくが、最高品質のカシミヤを使用した贅沢な肌触りを体感できる一着だ。
カーゴパンツ
15ozデニムカーゴパンツ。生地、シルエット、ディティールなどボリューム満点な一本。腰の両脇に大きなポケットを設け、膝にはダーツ、スソにはドローコードが通してある。ポケットのデザインや、膝のダーツはM-51やM-65に通ずるディティール。通常膝の横にあるサイドポケットを上に持ち上げ、腰回りにボリュームを出し、スソに掛けてはドカンとストレートで、ウェストはドローコードを通したイージーパンツだ。ダック生地などシーズンによって素材やディティールを変更していますが、HERILLではカーゴパンツも定番的に展開している。
HERILL まとめ
ご紹介したように、HERILLからは比較的シンプルで一見扱いやすそうなアイテムが展開されているように見えるが、デザイナーの大島さんいわく、少しクセのあるサイズ感やディティールは決して誰しもに似合うように作ってはおらず、全然普通ではない服だそう。
またHERILLでは、完売アイテムのリオーダーや再生産依頼があったとしても基本的には追加生産などは行わず、そこには大島さんの売ることだけに執着していないこだわりを感じることができる。
しかし同時に難しさも感じられているようで、コアで狭い服であるHERILLをもっと知って欲しいという想いと、ビジネス的には安易に広げすぎたくない想い、その狭間の大変さもあるようだ。それでも大島さんの服は、そのコアさがいいものとして自然と伝わり、それを手に入れ着る人はいいものと実感し現に人気も出て、支持者も多い。
これからHERILLのアイテムが、どのような人の手に届くのか、今後のHERILLはどう進化していくのか、本当に楽しみだ。